3D CAD推進プロジェクト プロフェッショナル連載記事

3DCADは単なる道具ではなく、インフラ

前回は、理想と現実のギャップが「問題」であって、これを解決するための手段が「課題」ということを話しました。
さて、これがどう3DCADと関係があるのか、話を進めていきましょう。

 

【1】3DCADはインフラです

3DCADについて私の持論は、3DCADは単なる道具ではく、インフラ」だということです。インフラとは、インフラストラクチャー(infrastructure)の略語で、もともとは「社会や生活の基盤となる構造物や仕組み」です。電気・ガス・水道・道路・通信網をイメージするとわかりやすいですね。

 

そんなことからも、「会社にとって、なくてはならない、あって当たり前のもの」なんです。なぜ、そこまで思うのか・・・3DCADで表現された設計情報は誰が見てもその形状をイメージすることができます。

皆さん、次の図面を見てどんな形状をイメージするでしょうか。

 

制限時間3です。形状を紙に書いてみましょう。

 

 

できましたか?では、3DCADで表現してみます。

 

いかがだったでしょうか。正しい形状をイメージできましたか?

 

私が設計をし始めた頃は、設計対象を全て2次元情報の図面として表すことから始まりました。仕事も同じです。頭の中には3Dモデルのイメージがあるのに、それを紙図面に三面図として、寸法公差や幾何公差、表面粗さといった設計情報を付加しながら表していきました。

 

そんなことからも、三面図を見て形をイメージすることは得意な方なのですが、この形状はさすがに私も2D図面から立体的にその形状をイメージすることは簡単ではありませんでした。設計や製造に関わらない人がこの2D図面を見た時に、この形状をイメージすることができるでしょうか。
それはきっと難しいでしょうね。

 

言い方を変えれば、3Dモデルで表現された形状は、誰でも同じ形にイメージできます。三面図では2次元設計を使用してこなかった人にはその形をイメージできないでしょう。でも3Dモデルならイメージすることが簡単なはずです。

 

そんなことからも、3Dモデルはコミュニケーションに優れたものということになるわけです。

 

【2】見えてりゃいいって言ったじゃん

形状が誰にでもわかるというと、前々回、「見えてりゃいいっていうもんじゃない」って言ったじゃん...と言われそうですが、実は「見えているだけでもすばらしい」部分もあるわけで、「それだけじゃないよ」ということを言いたかったのです。
「他にも伝えることができるものがあるはず」です。

 

3Dデータ・・・というよりは設計データがどう伝達されるのかを、私の経験からその一例を示してみましょう。

 

設計情報の流れ

 

①営業から設計部門に顧客の要求仕様が伝えられます。
この要求仕様は、図で示されるものもありますが、文字情報がほとんどでしょう。

 

②設計部門はこの要求仕様を元に、2D図面の構想図と仕様書を作成します。
作成された構想図と仕様書は営業に提出され、顧客と営業で打合せが行われます。営業も顧客も、必ずしも図面を理解できるとは限りません。

 

③受注となれば、設計部門では詳細設計が始まります。
詳細設計では、デザインレビュー(設計審査)が行われます。このデザインレビューでは、2D図面で行われることもあれば、3D図面で行われることもあります。これらはモニタやプロジェクタで映し出されたもので行われることがほとんどです。
映し出される内容は、実物大で表示されるものも、そうではないものもあります。2D図面を理解できる人と、そうではない人が設計審査に参加していることでしょう。

 

④デザインレビュー(設計審査)が合格となれば、機能上機構のかたまり(ユニット単位)での2D図面による出図が行われ、製番別の部品構成を示す設計部品表(E-BOM:Engineering Bill of Material,設計部品表)とともに図面が調達部門に渡されます。部品表には、部品の属性情報が示されています。

属性情報
加工品・・・材質・表面処理・員数
購入品・・・メーカー・型式・員数

 

⑤調達部門は、部品表と図面により、加工外注と購入品購入先(代理店)に手配を行います。
この際、発注先・予算・納期情報がE-BOMに追記され、調達用BOMが作成されます。

 

⑥加工外注は2D図面での部品図に基づき部品加工を行い、購入品購入先は型式に基づき、購入品メーカーに発注を行い、調達部門に納品します。

 

⑦調達部門は製番・図面番号・型式に基づき納品受け入れを行い、組立部門に渡されます。

 

⑧組立部門では、設計部門が作成した2D図面による組立図または3DCAD Viewerにより3D図面をモニタで見ながら、2D部品図面、E-BOMを参照して組立を行います。

 

⑨保守においては、消耗部品や保守部品となるものの部品表が作成されることがあります。
これらは保守部品表として管理されることもあり、2D図面による部品図購入品の型式・メーカーが参照されます。
また取扱い説明書・メンテナンスマニュアルも作成されますが、実機の画像や、組立図面(2DCAD図面または3DCAD図面)が用いられています。

 

このように、設計部門で作られた設計情報が、社内・社外で情報を伝える手段として使用されていることは明らかです。しかも、単なる形状を示すものだけではありません。

 

属性情報が記された部品表は社内で追記されるなどの展開も見られます。更には社外に受け渡されてもいますが、元となるものは、部品一個一個に設計者が設定したものになるわけです。

 

サプライチェーンについてお話ししたことがありますが、設計部門と部品受注先との間で設計情報のやり取りを行うこともmeviyの持つ仕組みのようにあることでしょう。meviy では設計者が3DCADで設計したモデルを WEB上でドラッグ&ドロップすることで、見積もり・納期確認が出来ます。これもまた設計時点で得られた属性情報になります。

ミスミ meviy画面

 

【3】見えるだけじゃない他の効果

ここにあげた設計情報のコミュニケーション状態のレベルというのは、決して高度なものではありません。とても一般的な内容でしょう。
そんなレベルであっても、そのやり取りや、そのデータの取り扱いに問題があるかもしれません。私の場合もそうでした。

 

2DCADを運用している中で設計部門内や他の部門とのやり取りの中で生じている問題、3DCADを使うようになったものの、繰り返されていた問題がありました。
開発設計製造を行ってきている中で、ずっと抱え続けている問題というものがきっとあるはずです。

 

だから、形状が見えるようになっただけでは解決しない問題があるのでしょう。この問題についてはあらためてお話ししようと思いますが、せっかく優れたインフラの3DCADを使っていくのですから、その時に営業~メンテナスに及ぶ範囲で、どんな問題が社内にあるのかを調べてみませんか?

 

PLM(Product Life cycle Management=製品ライフサイクル管理)と言う言葉、私は最近あまり聞かなくなったなと思っているのですが、まさにこれが、PLMを考える場面です。
その中で、3DCAD・3DCADデータが活躍する場面があるはずです。きっと、「見えるだけじゃない他の効果」があることでしょう。

 

さて、これらの問題や効果はだれが調べていったらいいでしょうか?私は、当該者で、情報の発信元にいる私は設計者自身がやるべきだと考えます。そして、この3DCADの推進活動で大切なことは、「人任せにしない」ということだと確信しています。

 

次回に続きます。