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上司の許可は後回しでOK!? ロストワックス鋳造メーカー、キャステムの自由すぎるものづくり文化

鋳造

金属を溶かして鋳型に入れて成形する鋳造。複雑な形状の部品を低コストで作ることができるため、自動車や産業機械などさまざまな部品加工で用いられています。

 

以前meviyブログでは鋳造のコンセプトカフェ「アイアンカフェ」の記事をお届けしました。その一風変わったカフェを運営しているのは、広島県福山市に会社を構える精密鋳造メーカーの株式会社キャステム。どうして鋳造メーカーがカフェ運営をしているの? そもそも鋳造そのものを間近で見たことない!

 

今回はそんな好奇心から、meviyスタッフの進藤がキャステム本社を訪れました!

 

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当日はあいにくの曇り空。キャステム本社の敷地内には鋳造工場があり、さらに流通倉庫も完備していました。フィリピンやタイなど、海外でも工場を運営し、グローバルに事業を展開されています。

 

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今回ご案内してくれたのは、経営管理部広報の長瀬友行さん。会社の業務に従事するかたわら、全国の中小製造業が自社の技術を使って作成したコマを持ち寄って戦う「全日本製造業コマ大戦」の西日本支部長も務められているそうです。

 

まずは、実際に鋳造加工を行っている加工工場を見学させていただきました。

 

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工場見学のときは事前にビジター用の帽子をかぶります。まるで一緒に働く仲間になったようで、ワクワクしますね。思わずほほ笑むmeviyスタッフの進藤。

 

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本社から工場は目と鼻の先。ニョキッと顔を出しているのは……黄色いキリン? 気になるところですが、まずは工場に向かいます。

 

いざ工場見学へ

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加工工場の中にやってきました。炎がパチパチと弾ける音や、鉄を削る音が聞こえてきて臨場感たっぷり…! 火があるせいか工場内の温度が高く、ほかほかとしていました。

 

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こういう鋳造の現場ってはじめて来ました!  今こちらでは何をされているんですか?
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金属を溶かして、鋳型に流し込むための「鋳込み」の準備をしています。そろそろ始まりますよ。

 

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合図とともに作業員が集まり、湯鍋に溶けた金属が注がれます。熱された鉄は1500℃以上。ケガをしないよう慎重に、みなさん神妙な面持ちで作業をしていました。緊張で周囲の空気が張りつめます。

 

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ジュワ〜!と音を立てて、鋳型に溶融金属が注ぎ込まれていきます。遠くから離れて見ていたのですが、熱気がもわもわと伝わってきて迫力満点でした。この作業工程は、なんだか神秘的ですらあります。

 

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すごい……!

 

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今見てもらったのが、一般的に知られている鋳造の工程です。溶けた金属を鋳型に注ぐのは、いつ見ても緊張感がありますね。
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鋳造加工ってこんな感じで行われているんですね! 普段見ない光景なので、びっくりしました。金属を流し込んだあとは、どういう流れで部品が成形されていくのでしょうか。
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しばらく冷やして金属を固めたあと、ハンマーや振動で鋳型を壊して、中から鋳造品を取り出します。そしてサンドブラストをかけてバリを取れば、部品の完成です。しっかりと強度や精度検査をしてから出荷という流れになります。
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なるほど。鋳造は金属を流し込むイメージのままで止まっていたので、その後の工程が具体的に理解できました。そもそもなんですが、鋳造の土台となる鋳型はどのように作られているのでしょうか?

 

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こちらに並んでいるのが、製品を作り出すための鋳型です。熱強度の高いセラミックで作られています。
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鋳型を間近でみるのも初めてです! 鋳型というともっと大きな物を想像していたのですが、ここまでコンパクトなんですね。
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この鋳型は自社で製作しています。のちほど鋳型の製作工程もお見せしますが、実は鋳造方法にはいろんな種類があるんです。
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え! 流し込みタイプがポピュラーだと思っていましたが、そんなに種類があるんですか?
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砂で鋳型をつくる「砂型鋳造」や金型に溶けた金属を圧入する「ダイカスト」などですね。そしてキャステムが専門にしているのは「ロストワックス精密鋳造」という製法です。 ワックス(ろう)でできた原型をセラミックでコーティングして鋳型を作成し、中のワックスを溶かして出来た空洞に溶けた金属を流し込みます。
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ワックスを消失させるから「ロストワックス」なんですね。ワックスで複雑な形状を作って、そこに金属を流し込めば鋳造品ができちゃうということですね!
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もちろん向いていない形状もありますが、何よりロストワックス製法はいろんな材質を選べるという利点があります。金型に直接溶かした金属を流すダイカストの場合、使用する材質は融点の低いアルミや亜鉛などに限られてきますが、ロストワックスは耐熱性のあるセラミックの鋳型なので、融点が1500℃を超える鉄など融点に左右されず様々な金属を選ぶことができます。
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精度やカタチだけでなく、使う材料なども鋳造法によって変わってくるんですね……。続いて、鋳型の製作現場を見せていただいてもよろしいでしょうか?

 

鋳型はどうやって作られているの?

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こちらが鋳型の素体になるワックスの制作現場。地元のパートさんを採用するなど、地域雇用の促進も意識しているそうです。みなさん黙々と作業されていました。

 

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鋳造品の形を模したワックスが何本も作られていました。成形のしやすさなどを意識して素材を配合しているので、製法は企業秘密とのこと。

 

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触った感じは、ちょっとツルツルしてますね。クルマに塗ったりするクリーム状のワックスを想像していたので意外でした!
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こちらをもとに、鋳型を作っていく作業をお見せしますね。

 

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こちらはワックスが連なったワックスツリー。この素体をこれからセラミックでコーティングしていきます。

 

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まずはワックスツリーをセラミック液に漬けて……。

 

セラミックパウダーでコーティング

セラミックパウダーでコーティング。途中で乾燥させつつ、何度も繰り返していくうちに、どんどんコーティングが強固になっていきます。

 

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鋳型を作る工程はこのような流れです。言ってみれば、天ぷらのタネを作るような感じですね。素材にセラミック液をつけて、セラミックの衣をつけるような。何度も繰り返して乾燥させるとさっき見たような鋳型が出来上がります。
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たしかに、油で揚げないけど、天ぷらと似てるかも! すごくわかりやすいですね。作業を繰り返すたびに鋳型が大きくなっていくので大変そう…!
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回数重ねるごとに重たくなっていくので、作業する人は腕がムキムキになっていきます(笑)。何気なくやっていることですが、実はすごくノウハウが必要なんです。作り方が甘いと後の工程で鋳型が割れるなど不具合の原因になったりしますから。
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こうした精密作業だとロボットにはちょっと任せにくいですし、やはり人の手による作業が大事になってきますよね。
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大ロット品はロボットによる自動化も視野に入れる必要がありますが、小ロット品は条件設定している暇があったら人の手でやったほうが早いし正確です。そういう意味で、経験のノウハウ部分を大事にしています。
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なるほど。どのようにして若手にノウハウを共有しているのでしょうか?
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とりあえずやってみて、ですね。鋳造はどうしても難しいので、今はほとんどの工程に人がついています。それぞれが試行錯誤しながら、作業の中でノウハウを体得していく。もちろん仲間同士でのコーチングもしっかり行っています。とにかくウチは難しいことをやっているから仕方ない、でもいずれできるようになるからね、という教育方針ですね。
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すごく懐が深いですね……。安心して仕事ができそうです。

 

何でも作れる!? アイアンファクトリー

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続いて長瀬さんに案内してもらったのは会社内にある自由工房「アイアンファクトリー」。ロストワックスやメタルインジェクションなどの技術を使って新しいものを作り出したり、新しい技術を取り込んでこの場所で実践したりする場所です。東京のアイアンカフェと連携し、生み出された商品をBtoC向に発信する拠点としても機能しています。

 

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施設内に置かれたホワイトボードには、従業員の作りたいもの、新たな商品のアイデアなどが書き込まれていました。作りたいものを自由に作れる空間があるのはすごく素敵です!

 

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こちらはいったいなんですか? トロフィーに見えますが……貯金箱?
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元広島東洋カープの黒田選手の手型を取って製作した「手型貯金箱」です。こちらも会社内の声から生まれました。全部金属でできているので、すごく重いですよ。
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そうなんですね! 見た目のインパクト抜群だ……。
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最初はトロフィーの予定だったんです。これは行ける!と思って、すぐに試作品を作って広島東洋カープさんのもとに持っていったんです。でも、トロフィーはありきたりだからと却下されてしまいました。帰り際、「貯金箱にしたらいいんじゃないか」と提案したらそれは他に無い商品だと気に入っていただいてすぐに決まりました。当初30個限定で販売したところ、開始15秒で売り切れちゃいました。
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提案から商品化までのプロセスが早すぎる! ものすごい行動力ですね。
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この施設は社長直下の部署になっているので、作りたいものがあればすぐに社長に連絡を取ることができます。普通の会社はまず社長にこれやっていいでしょうかってお伺いを立ててからのスタートだと思うのですが、キャステムは違う。こんなの作ってみたんですがいかがでしょうかと、先に物を作ってしまいますね。
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とても自由な社風ですね。行動力もすごいけど、それを許す社長もすごい。

 

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これは広島カープの赤ヘルを模した自転車のベルです。うちは社内のほとんどが、地元のカープファンでして。とある社員がヘルメット鳴らしたら面白いんじゃないかと提案したら、すぐに決まって。
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これ、すごくかわいいですね!
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社員が会社を通さずに直接企画を持ち込んで、「ネタが通ったからこんなの作りますね」って提案の流れで、みんな好き勝手やっていますね。ちなみにこちらは、数量限定でWEBショップで販売されていましたが現在は完売しています。
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お互いの信頼関係がしっかりしているからこそできることですよね。ものを作りたい人には最高の場所だ!

 

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職場を見渡すと、社員さんたちはみんなで話しながら和気あいあいと仕事をされていました。比較的若い人が多く、連携して業務に取り組まれていたのが印象的です。

 

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工場の屋上に建てられていたキリンの像。とある社員が古い煙突を改造して勝手に作ったものなのだとか! 窓から見えていたのは、この像だったんですね。今では地域の人に愛されるシンボルになっているそうです。

 

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会社内には、広島カープの丸佳浩選手と菊池涼介選手のサインが。長瀬さんいわく、社内の人間ほとんどがカープファンなので、誰が選手たちの手の型を取りに行くかでモメて、いろいろ大変だったそうです。

 

どうしてこんなに自由な会社なの? 戸田拓夫社長インタビュー

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鋳造のコンセプトカフェの運営や、社内で自由にものづくりができるアイアンファクトリーの設置など、従来の製造業からかけ離れた横断的な活動をされているキャステム。こういった社風はどうやって生まれ育ってきたのか、社長の戸田拓夫さんにお話を伺いました。

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今回は見学させていただきありがとうございました! 製造業だけに留まらない多角的な取り組みをされていると感じたのですが、そもそものきっかけはなんだったんでしょうか?

 

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以前から私が鋳造業という仕事を否定していたと言いますか、親から継いだこんなツラい仕事なんか絶対にしたくなかったんです。だから自分が社長を引き継いだとき、じゃあ自分がやりたいことを思いっきりできる会社にしようという思いが、いろんな活動を始めたきっかけでした。
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戸田さん自身が、従来の鋳造業を否定する側のポジションだったんですね。なんだかすごく意外でした。

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3年前、社員がやりたいことは何かを募集する「夢構想」というコンペを開いたんです。そうすると、社員からはあれがやりたい、これがやりたいと、予想以上に大きな反響があった。でも、幹部はこんな夢物語で仕事ができるわけがない、それなら納期や製品の品質をちゃんと向上させたほうがいいと、そんなことを言うんです。
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たしかに会社の安定を考えると、幹部の現実的な意見も納得できますね。

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でも、夢物語で仕事ができるかもしれないじゃないですか。もしできたらすごく楽しい。じゃあやってみようじゃないか、というのがきっかけでした。アイアンカフェ事業もそのうちの一つです。好き勝手やったら、何かそれがマネタイズに結びつくかもしれない。それいいじゃないかと。
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先ほどのアイアンファクトリーで長瀬さんから聞きましたが、なんでも好き勝手やらせてあげる戸田さんの懐もすごいですよね。

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だっていちいち企画書出せとか言うと、みんなやりたいことができなくなるじゃないですか。だからこの3年間は、とにかく好き勝手にやらせてあげました。そうしたら勝手に会社にキリンのタワーを作る社員が出てきた。これはおもしろいじゃないか、と。もちろん好き勝手にはできますが、やりっぱなしではなく、ちゃんと結実させることも大事です。
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キリンのタワーが自由の象徴みたいになっていますね(笑)。本業についてですが、キャステムさんのメインの業務はロストワックス鋳造だとうかがいました。こちらは好調ですか?

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我々は数少ないロストワックス鋳造メーカーで、唯一右肩上がりで成長しています。というのも、私たちの会社はよそがやりたがらないことを進んでやっているからです。鋳造は性質上どうしても不良品率が高い。そうやって難しいことに挑戦するからこそ出てくる利益があります。
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なるほど。難しいことをやっていたらそのうちにノウハウが蓄積して、できないことができるようになる。そうすると、だんだんとそれが強みになっていきますね。

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そうなんです。10個のうち9個不良品になる難易度の高さだったら10倍のお金をもらえばトントンですよね。でも、うちは3倍でやる。そうすると他社はやりたくないので、ウチだけに仕事が来る。最初は赤字ですが、試行錯誤にしていくうちにノウハウがたまって、2個のうち1個にまで不良品率が下がる。そうなると3倍もらっているから、だんだんと儲かる仕組みになっていく。誰もやりたくないことをやる、絶対できないと言われていることをやる。それがキャステムの体質に合っているんですよ。値段の交渉もしっかりやりますし。

 

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自社もどんどん強くなっていくし、ちゃんと規模の利益が出せる。一見遠回りかもしれないけど、ビジネスモデルとしては理想的ですね!

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大量生産品で中国とかと勝負してもしょうがないので、自分たちのできることにしっかり付加価値をつけるのが、これからの製造業界においても重要なポイントだと思いますね。
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ありがとうございます。そういえば先ほど社内を見学したとき、わりと若い方が多かった気がしたのですが、人材はどのように募集されているんですか?

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大手求人サイトで出しているだけで、特別な取り組みはしてないですね。なんか変なことやっている会社だな〜と、興味を持って来てくれる人が多いようです。
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昨年は本社だけで、200人くらいの応募がありましたね。人事が悲鳴を上げていました(笑)。
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200人!? 人材不足で悩んでいる製造業界としては、驚異的な数字……!

 

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みんなが好きなことを自由にやっている環境が、採用にもプラスの要素として波及しているんだと思います。私自身も、ずっと自分の好きだった紙ヒコーキの活動を続けています。私は折り紙ヒコーキ協会の会長を務めていて、紙ヒコーキの滞空時間のギネス記録を持っています。今日この後も4時間ぶっ通しで紙ヒコーキを投げに行きます(笑)。
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ものすごいバイタリティですね! 戸田さんがやりたいことをどんどんやっていたら、社員さんもついてきやすそう。最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか?

 

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会社としては、医療系の部門に進出するのはおもしろそうだなと考えています。3月26日には京都で、CTスキャンを入れたものづくりスペース京都LiQビルがオープンしましたし、もっと多角的なことにチャレンジしたいですね。ものづくりの未来は我々のような会社が描くんだと、そういう気持ちで胸を張っていこうと思っています。
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ありがとうございました!

 

まとめ

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鋳造業務だけではなく、社員のやりたいことを好きにできる土壌が備わったキャステムの仕事場。働いている人たちの顔が、とてもイキイキしていたように感じました。自分たちの付加価値をきちんとつけて、その上でしっかりと着実にものづくりに取り組む姿勢には頭が下がる思いです。

 

「ものづくりの未来は我々のような会社が描く」。戸田社長の力強いこの言葉がとても印象的でした。これからも、キャステム印のものづくりに注目が集まりそうです!

 

(神田匠/ノオト)

 

▼取材協力:株式会社キャステム
http://www.castem.co.jp/index.html

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