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meviyを利用して作られたアート作品も! 「亀山トリエンナーレ2017」現地レポート

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9月24日〜10月15日、三重県亀山市で現代美術の祭典亀山トリエンナーレ2017が開催されました。実は今回、ミスミの次世代ものづくりプラットフォーム「meviy」を活用したアート作品が展示されているという話を聞きつけ、さっそく現地へ。同会場の様子をレポートします。


「亀山トリエンナーレ2017」は美術館の展覧会とは違い、亀山の町全体が展示会場となるアートイベント。民家や商店、市の文化財に指定されている建物などを拠点とし、日常的な空間に非日常的な芸術作品を持ち込むことで、新たな化学反応を起こす狙いがあるそうです。

 

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今回の現代美術の舞台となる亀山は江戸時代、多くの旅人が往来した東海道五十三次46番目の宿場町でした。町並みにはかつて栄えた宿場町の面影が点在し、歴史の残り香を感じることができます。

 

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町家通りをくねくねと曲がる旧東海道。かつては多くの旅人たちがこの往来を行き交っていたのでしょう。町のあちこちに、当時の名残が見かけられます。

 

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旧東海道を抜けると、亀山のメインストリート・東町商店街にたどり着きました。初めて来たのにどこか懐かしさを感じるこちらの風景。遠くからは、にぎやかな楽器の演奏が聞こえてきました。

 

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こちらは、商店街の道路を活用した子どもたちによるチョークアート。動物やお花など、みんな思い思いの絵を描いていました。こういったお絵かきも、現代アートのひとつなのです。

 

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路上ではモデルさんがポーズを取り、キャンバスにスケッチする人たちの姿が。こうして間近でアートの現場を見るのは、なかなか新鮮な体験ではないでしょうか。

 

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商店街を歩いていると、ひと際目を引いた作品がこちらの「マルチコアストリーミング」。ジャクソン・ポロックを彷彿とさせる筆致からは、見る者に何かを訴えかけてくるような力強さとエネルギーを感じました。

作者の竹之内佑太さんは「この絵は36枚のパネルから構成されています。1日目を書き終えたら、次の日にはパネルを組み替え、全く別の絵柄にしてしまう。誰が描いたかわからなくなり、また予想もしない組み合わせが生まれることによって、作品がひとり歩きしていきます。その過程を味わってもらえれば」と、作品のコンセプトについて話してくれました。

作家だけでなく来場者もアート作品へ参加することができ、時間が経つと作品がまた新しく組み変わっていく……。アートは生き物であり、ときに姿を変えて私たちの前に現れる存在なのです。

 

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商店街からほぼ反対側に位置するこちらのモダンな建物は「旧舘家」

市の文化財にも登録されており、亀山宿を代表する歴史ある商家建築のひとつです。中庭を備えた2階建てで、こちらでも作品の展示が行われていました。

 

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入り口を通って中庭に出ると、庭の中には小さな茶室が。こちらも文化財に指定されている建造物です。

 

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茶室の前には「プロレス、やって〼」と書かれた立て看板が。茶室でプロレス? 思わず面食らってしまいますが、そのまま茶室に入ると……。

 

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目に飛び込んできたのがこちらの金絵巻。普通の絵巻かと思いきや、よく見ると和の雰囲気にはミスマッチなプロレスラーが絵の中で戦いを繰り広げていました。茶室でプロレスとはまさにこのこと。

 

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緑のマスクと白のマスクのレスラー同士が技を掛け合う作品「プロレスで御座い」。茶室に取り付けられたスピーカーからは、レスラー同士が戦っている生音声が流され、なんとも異質な空間が生み出されていました。

 

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こちらの作品を手掛けた森博幸さんは作品のコンセプトについて「当時の茶室では、武士同士の密談や取引が行われていたそうです。それはきっと、どちらも譲らぬ戦いだったはず。そこで、かつて茶室の中で行われていた戦いを現代風にプロレスで表現しようと試みました。未来の人がこの作品を見て、昔の日本では伝統的にプロレスが行われていたと誤解してくれたら愉快ですよね」と微笑んでいました。

 

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一見おどろおどろしいこちらは、写真家・柴原薫さんによる作品。そう、実は絵ではなく、それぞれ1枚の写真なのです。印画紙に薬品を滲ませ、インクをぼやかして独特な雰囲気を演出。目玉がグロテスクに見えますが、じっと見ていると怖さは薄れ、何か超自然的なるものへの畏敬の念が湧いてくるような……。

 

柴原さんは「平安時代などに見えていた神霊的なものが、時代が移ろうにつれて見えなくなってしまったのではないでしょうか。例えば、壁の染みが鬼の顔に見えることがありますが、実は鬼が染みに見えているのかもしれませんよね。普段私たちが目にする自然の中にも、実は妖かしたちが隠れている可能性を思い起こしてもらえれば」と作品の狙いを教えてくれました。

 

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こちらは武井琴さんが手がけたアニメーション作品「コマ撮り×ダンスat亀山」。亀山の町並みとコンテンポラリーダンスを融合させ、武井さんが亀山の町で踊る様子をコマ撮りでコミカルに動かしました。

 

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「私自身はダンサーとしてコンテンポラリーダンスを踊っていますが、あまり耳慣れないダンスだし、ハードルが高いように思われがちなんです。そこで、こうした映像作品にすることでコンテンポラリーダンスへのハードルが下がり、幅広い層に認知してもらえるのではというのがこの作品の狙いのひとつでした。コマ撮りにした理由は、私自身がそうしたコマ撮り作品が好きでよく見ており、コマ撮りの独特のゆるさが好きだからです」(武井さん)

 

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イスに座ったこちらのマネキンは、インスタレーション作品「HUMANITY EXTENSION」。何の変哲もないように見えますが、目を凝らしてよく見ると……。

 

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なんとロボットが足を動かし、貧乏ゆすりをしています! 無機質だったマネキンがただ小刻みに足を動かしただけで、途端に人間らしく見えてきました。

 

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この作品をつくったのは、冨永敬、増田雄太、大西拓人さんの3人ユニット。

設計を担当した大西さんは本作について、「マネキンはある意味、人間から無駄な要素を削ぎ落とした理想的な形です。私たちは無駄だと削ぎ落とされてしまう部分にこそ人間らしさがあると考え、貧乏揺すりといった人間が行う無駄な動作を持ち込みました。これが、かえって人間らしさを抽出することになるのではないかという試みなんです」と、作品に込めた思いを解説してくれました。

 

ちなみに、この「貧乏ゆすり」の仕組みはマネキンの太ももの付け根に固定具を置き、モーターで引っ張って動かしていました。このモーター軸の取り付け部品はミスミの「meviy」を使って作ったそうです。剛性も申し分なく、スピーディに作業が進められたとのこと。亀山トリエンナーレで、meviyを活用したアート作品が本当にあったとは、新鮮な驚きでした!

 

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最後に、亀山トリエンナーレを監修した井上隆邦さんに、今回のイベントについて話を伺いました。

――3年に一度の「亀山トリエンナーレ」ですが、今回はどんなイベントになっていると思われますか? 

井上さん 「今回のイベントには100名を超えるアーティストが参加し、市内約40ヵ所で展示を行いました。市内美術館ではなく、芸術とはあまり関係がない場所に作品を持ち込み、空間と作品に新たな化学反応をもたらすことが狙いだったのですが、みんなそれぞれの場で自分の表現ができているように感じましたね」

 

――昨今、現代アートの祭典はSNSなどで話題になることも増えました。こういった動きが活発になることで、アート作品や会場全体の雰囲気に何か変化を感じることはありますか? 

井上さん 「今回のイベントは特に、SNSツールがなければ実現し得なかったのではないかと思っています。これまでは、アート作品に関する情報は人づてだったりアナログな方法を取らざるを得なかったりしましたが、SNSのおかげで作品を知る糸口が確実に増えました。また、今回のイベントには海外のアーティストも出展しており、外国人のアーティストが自分の知らない海外のアーティストを紹介してくれるなど、たくさんのつながりが生まれましたね。このイベントによって、名も無き新人作家が発掘され、新たな活躍のきっかけとなってくれれば、こんなにうれしいことはありません」

 

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子どもからお年寄りまで多くの人がアートと触れ合った「亀山トリエンナーレ2017」。来場者と作品が出会い、新たな相互反応が生まれるだけでなく、歴史ある亀山の町を楽しめるとても素敵な芸術祭でした。作品の一部にmeviyを活用した作品を見ることができたのも、新しい発見だったと思います。

次回開催は2020年。今回のようにmeviyがアーティストの創作活動をサポートできれば、また新たな表現ができるようになり、ものづくりとアートの可能性がより広がっていくのではないでしょうか。3年後の開催も楽しみです!

 

(ノオト/神田 匠)