ダイセキのメカ設計道場 プロフェッショナル連載記事

ボールネジを選定してみよう(前編)

前回は、案内要素であるリニアガイドの選定をしました。これで移動部は設計者の意図する方向に移動できるようになりました。今回は、動作させる要素として、ボールネジの選定をしていきましょう。

ボールネジとリニアガイド

ボールネジの選定(基礎編)

ボールネジのカタログを見ると、たくさんの種類があります。同じ軸径でも製作方法の違い(転造、研削)や精度の違い(C3、C5、C7)、リードの違いがあります。選定は、用途(搬送 or 位置決め)と必要な位置精度、動作速度から決めていきます。

ボールネジとすべりネジ、タイミングベルトの違い

移動させる要素として、ボールネジ以外にすべりネジやタイミングベルトがあります。
これらの違いを簡単にまとめてみました。

形式 名称 外観 特徴
ネジ ボールネジ ボールネジ ボールが無限循環するリニアガイドに似た構造で、摩擦が小さく効率が良い。

研削ネジでは、高い精度が期待できる。

台形ネジ

(すべりネジ)

台形ネジ(すべりネジ) ネジ山の断面形状が台形をしている。

主に手動送用途で使用することが多い。

摩擦が大きく、給油して使用する。精度は良くない。

三角ネジ

(すべりネジ)

三角ネジ(すべりネジ) いわゆる普通のネジと同様のもの。

位置決めステージやテンションプーリーなどの押しボルトとして使用される。

ベルト タイミングベルト

(台形歯)

タイミングベルト(台形歯) 搬送用途として使用することが多い。

伝達トルクはあまり大きくなく、大きなトルクを掛けた場合、歯飛びやベルト破損する場合がある。

タイミングベルト

(丸形歯)

タイミングベルト(丸形歯) 台形歯より伝達トルクが大きく、駆動伝達用途として使用する。

バックラッシュも少ない為、位置決め精度も良いが、ボールネジには劣る。

どのネジやタイミングベルトが適しているのか、必要精度、速度、ストローク、使用環境に合わせて選択していきます。

まず、必要精度の面からすべりネジとタイミングベルト(台形歯)は除外します。どちらもバックラッシュは0.1~0.2㎜程度ありますので、今回の仕様には適しません。
また、すべりネジは高速運転には不向きですので、この点からも除外できます。

 

残るのは、ボールネジ又はタイミングベルト(丸型歯)となります。
この2つの内で比較します。正逆運転のある装置の場合、加速・減速の際に進行方向に力が発生します。

停止精度を安定させるためにはこの力による影響を受けない仕組みが必要になります。制御側で加減速パターンを細工する手もありますが、機械的に安定させることが第一です。

 

ここでは、タイミングベルトとボールネジの二択ですので、外力による伸びが少なく安定した精度が出せるボールネジを使用することに決定します。

ボールネジの種類

ボールネジには転造ネジと研削ネジ(精密ネジ)があります。これらは製作方法(ボールの転動面の整形)に大きな違いがあります。

 

まず、転造ネジですが、ボールの転動面が「転造」という加工方法で整形されています。ブランクのネジ軸(溝を切っていない状態)を転動面の形がついた型で挟み、型の間で転がすようにして整形します。

イメージで言うと、粘土を棒状にして、両手で挟み指の間で転がすと「だんだん」が出来るようなものです。従って、転造ネジの場合は転動面の精度はあまり良くありません。
しかし、加工時間は短いので短納期、低価格で製作できます。

 

次に研削ネジですが、こちらはブランクのネジ軸を研削加工により整形します。ネジ軸を回転させながら軸方向に移動させ、その時に砥石で転動面を加工により整形していきます。
従って、転動面は目標とする精度で整形することが出来ます。しかし、加工時間が長くなるので、長納期、高価格となることが多いです。

以上をまとめると、転造ネジと研削ネジの違いは下の表のようになります。

転造ネジ 研削ネジ
精度 低い 高い
納期 短い 長い
価格 安い 高い

 

今回の場合では、

①ワークを正確にチャックすること

②搬送先パレットの凹部に正確に入れること

が求められますので、研削ネジを選択します。

 

ボールネジの精度

それでは、ボールネジの選定をしていきます。ボールネジのカタログには精度について色々な情報が書いてありますのでそこから見ていきます。

ボールネジの精度

この図はJIS B 1192で規定されている図で、カタログの精度情報を読むために必要な事柄が記載されています。

図中の用語の意味は下記のようになっています。

用語 解説
リード ねじ軸の1回転に伴い、ナットが軸方向に進む距離
呼びリード カタログ上で記載されるリード
基準リード 実際の製作時に仕様として決めるリード
実リード 実際のボールねじについて測定して求めたリード
累積呼びリード ねじ長さ分だけ回転させた時の呼びリードの累積値(カタログ値)
累積基準リード 基準リードに従って任意の回転数が回転したときの累積したリード
累積実リード 連続測定による累積したリード線図からその平均的傾向を求めたもの、またはねじ軸の軸線を含む任意の断面での測定により求める累積したリード
累積代表リード 累積実リードの傾向を代表する直線
累積代表リード誤差 累積代表リードと累積基準リードの差
累積実リード誤差 累積実リードから累積基準リードを引いた値
変動 累積代表リードに平行に引いた2本の直線で挟んだ累積実リードの最大値で、次の3項目について規定する
a)ナットの有効移動距離またはねじ軸のねじ部有効長さに対応するもの(移動距離全体での変動)
b)ねじ軸のねじ部有効長さの間に任意にとった300mmに対応するもの(300㎜の区間での変動)
c)ねじ軸のねじ部有効長さの間の任意の1回転に対応するもの(1回転する間での変動)

ボールネジの精度等級は累積代表リード誤差と変動により、決定されます。

精度等級は、精密ボールネジ(研削ネジ)ではC0~C5、転造ボールネジではC7~C10となっています。

精密ボールネジの累計リードと変動

転造ボールネジの精度等級はC7,C10がほとんどです。通常、変動についての言及はされず、累積リード誤差のみで精度等級を決定します。

累積リード誤差許容値 単位:μm
精度等級 C7 C10
累積リード誤差※ 52 210
※ねじ軸のねじ部有効長さの任意にとった300mmの基準リードに対するリード誤差の許容値

ここまで、ボールネジの選定をする際に検討すべき事柄について説明しました。用途、必要な速度、精度からボールネジを選定していきます。場合によってはボールネジ以外にタイミングベルトなども選択肢に入れていきます。
後半では実際にボールネジの選定を行っていきます。

それではまた。

ボールネジを選定してみよう(後編)